IT担当者がいない町工場でも、生成AIは日報・メール・手順書といった「文章を作る仕事」から始めるのがおすすめです。最初は大きな投資をせず、5つの業務から1つを選び、入力・処理・出力に分けて試してみてください。
この記事は、中小機構が公開している2026年版中小企業白書の解説ページ、個人情報保護委員会とよろず支援拠点全国本部の公式ページをもとに、2026年10月4日確認時点の内容で書いています。相談窓口や注意喚起の内容は変わることがあります。最新の情報はよろず支援拠点全国本部と個人情報保護委員会の公式ページで確認してください。
中小企業でAIの活用が進まないのはなぜ?
中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)は、2026年5月20日公開の解説ページで、2026年版中小企業白書のデジタル関連の記述を紹介しています。AIに関係する点を表にまとめました(2026年10月4日確認)。
| 項目 | 解説ページが紹介する白書の内容 |
|---|---|
| AIの活用状況 | 省力化投資のうち、AIを活用している企業は全体の約3割 |
| AIを活用していない理由 | 「活用する業務のイメージができていない」が最多 |
| 使われ方 | 文章作成やアイデア出しでは使われているが、コア業務で成果を上げるのはハードルが高い |
| 人手不足 | 「労働供給制約社会」の到来で、人手不足がさらに深刻化するおそれ |
注目したいのは、活用していない理由の最多が「活用する業務のイメージができていない」だという点です。ツールの性能や価格より先に、「どの仕事に使うか」が決まっていないことが最初の壁になっている、と読むことができます。
町工場では、社長や工場長が営業・見積・品質・採用を兼ねている場合もあるでしょう。その場合、使う業務を一つ決めるだけで、AI活用はぐっと現実的になると考えています。
IT担当者がいなくても始められる?
最初の一歩であれば、IT担当者がいなくても始められると考えています。ここで言う生成AIとは、文章で指示すると、文章・表・要約などを作ってくれるAIのことです。
最初に試す業務は、システム開発や社内データとの連携が要らないものを選べます。IT担当者がいない会社で、最初に決めておきたいのは次の3つです。
- 誰が使うか: まずは社長や工場長など、1〜2人から始める
- 何に使うか: 下の5業務から1つだけ選ぶ
- 何を入力しないか: 図面や取引先の機密、個人情報の扱いを先に決める(後述)
機械の稼働データの分析や、画像による外観検査のように、設備やデータの準備が必要な使い方もあります。ただ、それらは「文章の仕事」で手応えをつかんでからでも遅くありません。
町工場で最初に試す5つの業務は?
TERRAISEがおすすめする最初の5業務を、入力・出力と到達点で整理しました。到達点とは、AIにどこまで任せられるかの目安です。
| 業務 | 入力(AIに渡すもの) | 出力(AIが作るもの) | 到達点の目安 |
|---|---|---|---|
| ① 日報・作業報告の整理 | 現場の走り書きメモ | 決まった様式の日報 | 下書き+人が確認 |
| ② 取引先へのメールの下書き | 要件のメモ・過去の文面 | メールの文案 | 下書き+人が確認 |
| ③ 作業手順書の下書き | 作業の説明・部品名 | 手順書の下書き | 下書き+人が監修 |
| ④ 不具合報告書の整理 | 経緯のメモ・検査の記録 | 報告書の骨子・原因の切り口 | 思考を加速する道具 |
| ⑤ 求人票・新人向け資料 | 仕事内容・会社の強み | 求人の文案・説明資料 | 下書き+人が確認 |

① 日報・作業報告の整理
現場の走り書きや箇条書きのメモを渡し、決まった様式の日報に整えてもらう使い方です。様式(項目と順番)を最初に決めておくと、出力が安定しやすくなります。書く手間が減ると、日報が途切れにくくなることも期待できます。
② 取引先へのメールの下書き
納期の回答、見積の送付、仕様の確認など、取引先とのやりとりの文面づくりです。「伝えたいこと」をメモで渡し、丁寧な文面に整えてもらいます。送る前に、数字・日付・品番は必ず人が見直します。
③ 作業手順書の下書き
ベテランが口頭で説明する作業の流れを文字に起こし、手順書の形に整えてもらう使い方です。最初は「作業の説明」と「部品名」だけを渡し、下書きを人が監修する形から始めるのがおすすめです。
TERRAISEが研修を担当した旭鉄工株式会社(自動車部品製造)では、作業動画と部品名を入れるとAIが作業手順書を自動生成する仕組みを作りました。手順書の作成は数日から数時間になっています(旭鉄工株式会社の事例)。こうした仕組みも、まずは「手順書の様式を決める」ところから始まります。
④ 不具合報告書の整理
不具合やクレームの経緯をメモで渡し、報告書の骨子や、原因を考える切り口を出してもらう使い方です。原因の判断は現場を知る人にしかできないため、AIは「考えを広げる相手」として使います。
⑤ 求人票・新人向け資料
人手不足が続くなかで、採用と育成の文書づくりは後回しになりがちです。仕事内容や会社の強みをメモで渡し、求人票の文案や新人向けの説明資料の下書きを作ってもらいます。事実と違う表現が混ざっていないか、人が確認してから使います。
始める前に決めておく社内ルールは?
個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています(2026年10月4日確認)。事業者向けの注意点は、主に次の2つです。
- 個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入力する場合は、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認する
- 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性がある。そのため、サービスの提供元が個人データを機械学習に利用しないことを十分に確認する
町工場では、これに加えて次のようなルールを1枚の紙にまとめておくことが考えられます。
- 図面・取引先の仕様書・見積単価など、取引先との約束で外に出せない情報は入力しない
- 使うサービスと、入力した内容が学習に使われるかどうかの設定を、提供元の公式ページで確認しておく
- AIの出力は下書きとして扱い、数字・日付・品番は人が確認してから使う
情報をどうしても外に出せない業務が中心なら、社内にAIを置く方法もあります。詳しくはローカルLLMとは。クラウドのAIとの違いと、導入の判断基準で解説しています。
ツールを選ぶ前に、業務を「入力→処理→出力」に分ける
TERRAISEでは、どの業務も「入力(INPUT)→処理(PROCESS)→出力(OUTPUT)」に分けて考えます。分けてみると、AIに渡せる工程と、人が担う工程が見えてきます。

分けたあとは、到達点を3段階で考えます。
- 完全自動化: 出力の形が決まっていれば、完全に自動化できる
- 下書きを自動生成+人が監修: 日報・メール・手順書など、最後に人が責任を持つ文書
- 思考を加速する道具: 不具合の原因の検討など、判断そのものは人が行う仕事
町工場の最初の5業務は、多くが「下書き+人が監修」に当たります。最初から完全自動化を狙わず、下書きで時間が浮くことを確かめるのがおすすめです。
進め方は、次の4段階で考えると無理がありません。

- 社長・工場長が「書く仕事」を書き出す
- 5業務から、毎週発生するものを1つ選ぶ
- 入力と出力の様式を決め、入力しない情報を決める
- 数週間試して、浮いた時間と手直しの量を振り返る
社内に詳しい人がいないとき、どこに相談できる?
よろず支援拠点は、国が全国に設置した無料の経営相談所です。公式ページには、何度でも無料で相談できると書かれています(2026年10月4日確認)。
AIについては、令和8年度に各拠点に配置された「AIアドバイザー」が、次のような支援をすると説明されています。
- AIを活用できる業務の整理
- 導入に向けた社内文書・データの準備
- 活用可能なサービスの検討
よろず支援拠点全国本部は、2026年8月28日に令和8年度AIアドバイザー登録者一覧表を公開しています。地元の拠点に相談するときの手がかりになります。
社員向けにAI研修を行う場合は、助成金を使える場合があります。制度の選び方は生成AI研修・AI導入に使える助成金・補助金のまとめ【2026年版】を参考にしてください。TERRAISEでは、製造業の協力会社団体である豊田合成協和会で、46名が参加したAI研修を行いました(豊田合成協和会の事例)。
まとめ
- 2026年版中小企業白書では、中小企業がAIを活用していない理由の最多は「活用する業務のイメージができていない」(中小機構の解説ページより)
- IT担当者がいなくても、日報・メール・手順書など「文章を作る仕事」から始めることが考えられる
- 最初の5業務は、日報、取引先メール、作業手順書、不具合報告書、求人票・新人向け資料
- 個人情報や取引先の機密を入力しないルールを、始める前に決めておく
- 社内に詳しい人がいなければ、よろず支援拠点のAIアドバイザーに相談できる
製造業での進め方の全体像は製造業の生成AI活用、何から始めるか(業務の3分解)で、最初の業務の選び方をさらに詳しく解説しています。自社のどの業務から始めるか迷ったら、60分の無料相談をご利用ください。会社紹介資料のほか、製造業向けのAI活用支援のページもご覧いただけます。
出典(2026年10月4日確認)
- 中小機構「2026年版中小企業白書でデジタルについて述べられたこと 〜「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(PDF)
- よろず支援拠点全国本部「よろず支援拠点・生産性向上支援センターとは」
- よろず支援拠点全国本部「よろず支援拠点全国本部」
