AX研修とは、生成AIを前提に「自分の業務のどこをAIに任せるか」を決め、仕事の進め方を実際に変えるところまで扱う研修です。DXの素養を広く学ぶDX研修と違い、成果は「受講後に業務が変わったか」で測ります。
この記事は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と厚生労働省の公表資料をもとに、2026年9月26日時点の内容で書いています。デジタルスキル標準は改訂されることがあるため、最新の内容はIPA「デジタルスキル標準(DSS)」で確認してください。
AX研修とは?まず「AX」の意味を確認する
AXは「AIトランスフォーメーション」の略です。IPAは2026年4月16日のプレス発表で、デジタルスキル標準ver.2.0の改訂の背景として「AX(AIトランスフォーメーション)の進展」と、それに伴うデータ活用の重要性を挙げています。
一方で、確認したIPAのデジタルスキル標準の資料には、「AX研修」という用語の定義はありません(2026年9月26日確認)。研修会社によって、呼び方も扱う範囲も異なります。そこでこの記事では、TERRAISEの考え方として次のように整理します。
- AX研修: 生成AIを前提に、受講者が自分の業務の進め方を見直し、AIに任せる工程を決めて実際に動かすための研修
- DX研修: デジタル技術やデータ活用の素養を、社員が広く身につけるための研修
AX研修は「AIの使い方講座」だけを指す言葉ではない、と考えるのがおすすめです。ツールの操作を覚えても、業務の流れが変わらなければ成果にはつながりにくいからです。
DX研修とAX研修の違いは?
どちらも社員の学びですが、目的とゴールが違います。TERRAISEの整理では、次のような違いがあります。
| 観点 | DX研修 | AX研修 |
|---|---|---|
| 主な目的 | デジタル・データ活用の素養をそろえる | 生成AIで業務の進め方を変える |
| 学ぶ中心 | DXの背景、データや技術の知識 | 自分の業務の分解と、AIへの任せ方 |
| 使う題材 | 一般的な事例や知識 | 受講者の実際の業務や書類 |
| ゴール | DXを自分事として理解する | 業務の一部がAI前提で動き始める |
| 成果の見方 | 受講率・理解度 | 作業時間・作成物・定着の度合い |

両者はどちらかを選ぶものではありません。DX研修で身につける素養は、AX研修の土台になります。全社員にはDXの基礎をそろえ、業務を変えたい部署から順にAX研修を行う、という組み合わせが考えられます。
公的な物差し「デジタルスキル標準(DSS)」は生成AIをどう扱っている?
研修の中身を考えるとき、公的な物差しになるのがデジタルスキル標準(DSS)です。DSSは、個人の学習と企業の人材育成を支えるために策定された標準で、次の2つで構成されます。
| 標準 | 対象 | 主な内容 |
|---|---|---|
| DXリテラシー標準(DSS-L) | 全てのビジネスパーソン | 「Why(DXの背景)」「What(DXで活用されるデータ・技術)」「How(データ・技術の利活用)」「マインド・スタンス」の4つ |
| DX推進スキル標準(DSS-P) | DXを推進する人材 | 役割(人材類型)と、習得すべきスキル |
IPAはDXリテラシー標準のねらいを、DXに関するリテラシーを身につけて、DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになること、と説明しています。
生成AIに関する改訂の流れ
DSSは、生成AIの普及に合わせて段階的に改訂されてきました。
| 時期 | 対象 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 2023年8月 | DXリテラシー標準 | マインド・スタンスに「生成AI利用において求められるマインド・スタンス」を追加 |
| 2024年7月 | DX推進スキル標準(ver.1.2) | 生成AIに関する補記を追加。生成AIを「活用する」場合と、生成AIを組み込んだ製品・サービスを「開発する、提供する」場合の2つの観点 |
| 2026年4月 | デジタルスキル標準ver.2.0 | データマネジメント類型を新設。AIの実装・運用やAIガバナンスに関するスキルを追加 |
2023年8月に追加された生成AIのマインド・スタンスは、要点をまとめると次の3つです。
- 「問いを立てる」「仮説を立てる・検証する」などのスキルを使い、生産性向上やビジネス変革に適切に利用する
- 期待しない結果が出ることや、著作権などの権利侵害・情報漏洩・倫理的な問題に注意する
- 生活やビジネスへの影響にアンテナを張り、変化をいとわず学び続ける
ver.2.0では、DX推進スキル標準の人材類型が、ビジネスアーキテクト・デザイナー・データサイエンティスト・データマネジメント・ソフトウェアエンジニア・サイバーセキュリティの6つになりました。
AX研修の中身を考えるなら、全社員向けにはDXリテラシー標準の生成AIの3点を、推進役にはDX推進スキル標準の該当する類型を下敷きにするのが考えられます。
なぜ「研修をやっただけ」では成果が出にくいのか?
公的な資料からは、「知識を学ぶ場」だけでは足りないことが読み取れます。
- 使いこなす人材が足りない: IPAは、AI自体を開発する人材だけでなく、AIを活用してサービスを提供する人材、業務の中でAIを使いこなす人材が不足していると指摘しています
- DXを推進する人材の不足: IPAの「DX動向2025-AI時代のデジタル人材育成」(2025年10月9日公開)では、日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しており、米国・ドイツと比べて著しく高いとしています
- 職場での学びの機会: 同じ資料は、リクルートワークス研究所の調査をもとに、OJTや自己啓発の実施割合が日本は調査対象国の中で下位だと紹介しています
厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」は、学びの目標の擦り合わせ、学びの機会の確保、学びの実践や評価という「学びのプロセス」を踏まえることが望ましいとしています。さらに、学んだ後に業務に活かすことが重要で、それによって能力・スキルの定着も期待できる、としています。
つまり、研修当日だけで完結する設計では、学んだことが業務に戻らないまま終わりやすいと考えられます。AX研修は、研修の前後を含めて設計するのがおすすめです。
現場で成果が出るAX研修の5つの条件は?
公的な資料とTERRAISEの考え方をもとに、成果につながるAX研修の条件を5つに整理しました。

1. 経営の方向性と、変えたい業務を先に決める
厚生労働省のガイドラインは、経営戦略と人材開発の方向性を共有し、職務に必要な能力・スキルを明確にすることを、労使が取り組む最初のステップに置いています。AX研修でも、「どの業務の時間を減らしたいか」「どの作成物の質を上げたいか」を先に決めておくと、研修の中身がぶれにくくなります。
2. 受講者自身の業務を題材にする
一般的な例題だけでは、受講者が自分の仕事に置き換えるところで止まりがちです。日報、議事録、見積の下書き、手順書など、受講者が実際に作っている書類を題材にするのがおすすめです。
3. 使い方のルールと注意点を一緒に学ぶ
DXリテラシー標準は、生成AIの利用で期待しない結果や権利侵害・情報漏洩に注意することを求めています。IPAは2026年4月2日に「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を公開しました。AIを利用する際に最低限実施すべきセキュリティ対策をまとめたもので、社内研修などで利用できるスライド形式です。社内ルールとあわせて、研修の中で扱うと効果的です。
4. 研修の後に、実践と振り返りの場を置く
ガイドラインが示すとおり、学んだ後に業務に活かすことが定着につながります。研修の最後に「来週から試す業務」を1つ決め、数週間後に結果を持ち寄る回を設けるのが考えられます。
5. 学び合いと伴走の仕組みを残す
ガイドラインは、労働者が相互に学び合う環境の整備や、伴走支援の仕組みにも触れています。うまくいったプロンプト(AIへの指示文)や使い方を社内で共有する場と、困ったときに相談できる相手を用意しておくと、研修が単発で終わりにくくなります。
ツールを選ぶ前に、業務を「入力 → 処理 → 出力」に分解する
TERRAISEは、AX研修を始める前に、業務を分解することをおすすめしています。どの業務も、入力(INPUT)→ 処理(PROCESS)→ 出力(OUTPUT)に分けると、AIに渡せる工程と人が担う工程が見えてきます。

| 業務 | 入力 | 処理 | 出力 |
|---|---|---|---|
| 作業手順書の作成 | 作業動画・部品名 | 手順を書き起こして整理する | 作業手順書 |
| 会議の議事録 | 録音・メモ | 要点と決定事項をまとめる | 議事録 |
| 問い合わせへの返信 | 問い合わせ文・過去の回答 | 回答案を作る | 返信文の案 |
分解したら、工程ごとに到達点を決めます。TERRAISEでは、到達点を次の3段階で考えています。
- 完全自動化: 出力の形が決まっていれば、完全に自動化できる
- 下書きを自動生成+人が監修: AIが下書きを作り、人が確認して仕上げる
- 思考を加速する道具: 企画や判断の材料出しにAIを使う
たとえば旭鉄工株式会社の事例では、作業動画と部品名を入れるとAIが作業手順書を自動生成する仕組みをつくり、手順書の作成が数日から数時間になりました。入力と出力の形がはっきりしている業務ほど、AIに任せやすいことがわかります。
次にやることは、次の3つです。
- 自部署で時間がかかっている業務を3つ書き出す
- それぞれを入力・処理・出力に分け、到達点の段階を仮に決める
- その業務を、AX研修の題材として持ち込む
TERRAISEは、AI活用が進まない理由を「知識の壁」「実装の壁」「定着の壁」の3つと考えています。業務の分解は、知識を学んだ後に「実装」と「定着」へ進むための準備にもなります。
まとめ
- AX研修は、生成AIを前提に業務の進め方を変えるところまで扱う研修です。DSSの資料に「AX研修」の定義はありません(2026年9月26日確認)
- DX研修は素養をそろえる研修、AX研修は業務を変える研修と整理でき、両者は組み合わせて使えます
- デジタルスキル標準は2023年8月・2024年7月に生成AIの記載を加え、2026年4月のver.2.0でAIの実装・運用やAIガバナンスのスキルを追加しました
- 厚生労働省のガイドラインは、学んだ後に業務に活かすことが重要だとしています。研修の前後の設計が成果を左右します
- 研修を選ぶ前に、業務を入力・処理・出力に分解し、AIに任せる工程と到達点を決めておくのがおすすめです
研修費用を公的な制度で抑えたい場合は人材開発支援助成金で生成AI研修を受けるにはを、製造現場でのAIの進め方は製造AXとはもあわせてご覧ください。自社に合うAX研修の設計は、60分の無料相談でご相談いただけます。TERRAISEの生成AI研修「AX Academy」の内容は、会社紹介資料でも紹介しています。
出典(2026年9月26日確認)
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準(DSS)」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DXリテラシー標準(DSS-L)概要」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「プレス発表 デジタルスキル標準ver.2.0を公開」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「プレス発表 生成AI関連の記載をデジタルスキル標準とITパスポート試験に追加」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「プレス発表 DXを推進する人材向けの「DX推進スキル標準」に生成AIに関する補記などを追加」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「AI利活用のための人材育成」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025-AI時代のデジタル人材育成」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「プレス発表「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」「AIセキュリティ短信」を公開」
- 厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン(特設サイト)」
- 厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」
