外観検査にAIを使うなら、いきなり目視検査の全面置き換えを目指すより、撮影条件をそろえて良品・不良品の画像を集め、熟練者の判定を「正解」として一致率を測るところから始めるのがおすすめです。 一致率は「見逃し」と「過検出」の2つに分けて見ると、現場で使えるかどうかを判断しやすくなります。
この記事は、厚生労働省と中小企業庁が公表した2026年版ものづくり白書の情報、産業技術総合研究所(産総研)の「機械学習品質マネジメントガイドライン」、画像を扱うAIサービスの公式ドキュメントをもとに、2026年10月5日時点の内容で書いています。白書の全体はミラサポplusの案内ページから、ガイドラインは産総研の公開ページから確認できます。AIサービスの仕様は変わることがあるため、使う前に各社の公式ドキュメント(記事末の出典)を確かめてください。
外観検査にAIを使う前に、押さえておきたいことは?
まず、製造業を取り巻く状況を公的な資料で確認します。
| 項目 | 内容(2026年版ものづくり白書) |
|---|---|
| 公表 | 2026年5月29日に閣議決定。経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省が作成 |
| 製造業の就業者数 | 2023年の1,055万人から、2025年は1,033万人に減少 |
| 技能継承の取組 | 再雇用や勤務延長で高年齢の従業員に働き続けてもらう取組が最も多く、54.8% |
| AI・デジタル | 競争力の強化には、経済安全保障の取組やAI・デジタル技術の活用が重要とされている |
熟練者の目に頼る外観検査は、人手の確保と技能継承の両方の課題に関わりやすい業務だと考えられます。ただし、AIの判定は完璧ではありません。たとえばAnthropicは、画像を読めるAI(Claude)の公式ドキュメントで、重要な用途では画像の解釈を人が確かめるよう求めています。完全な精度が必要な作業に、人の監督なしで使わないようにとも書いています。
そこで、最初の目標は「AIが熟練者とどれくらい同じ判定をするか」を数字で知ることに置くのがおすすめです。この数字があれば、AIに任せる範囲を、根拠を持って少しずつ広げられます。
最初に決めることは?対象・不良の種類・「正解」の決め方
画像を撮り始める前に、次の3つを決めておくと、あとで集め直す手間を減らせます。
- 対象を絞る: 品番を1つ、工程を1つに絞ります。形や材質が違う品番を混ぜると、何が判定に効いているのか分かりにくくなります
- 不良の種類を言葉と見本で決める: 「キズ」「打痕」「汚れ」など、現場で使っている呼び方をそのまま使います。どこからが不良かは、限度見本(合格と不合格の境目を示す見本)の写真とひもづけておきます
- 誰の判定を「正解」にするか決める: 熟練者1人の判定を正解にするのか、複数人で合議するのかを決めます
あわせて、熟練者どうしの一致も確かめておくのがおすすめです。同じ画像を2人の熟練者に別々に判定してもらうと、人の間でも判定が分かれる画像が見つかります。判定が分かれた画像は「境目の画像」として別に記録し、限度見本を見直す材料にします。人どうしの一致の度合いは、AIに求める水準を決めるときの目安にもなります。
画像はどう集める?撮影条件のそろえ方
外観検査のAIは、学習に使った画像と似た条件の画像でないと、うまく判定できないことがあります。まずは、撮影の条件をそろえて記録することから始めます。
| 項目 | そろえること | 記録しておくこと |
|---|---|---|
| カメラの位置 | 距離・角度を固定する(治具や台を使う) | 距離、角度、使った機材 |
| 照明 | 照明の種類と向きを決め、外光の影響を減らす | 照明の種類、時間帯 |
| 背景・置き方 | 背景の色と、部品の向き・置く位置を決める | 置き方のルール |
| 画像の形式 | 解像度とファイル形式をそろえる | 解像度、形式 |
| ファイル名 | 品番・日付・判定が分かる名前にする | 判定者、不良の種類 |
一方で、条件をそろえすぎるのにも注意が要ります。MicrosoftのCustom Vision(画像分類のサービス)の公式ドキュメントは、次のように説明しています。
- 実際に判定させる画像を代表する画像で学習させる。そうしないと、画像に共通するたまたまの特徴で判定を覚えてしまうことがある
- 例として、手に持ったリンゴと白い皿の上の柑橘類で学習すると、果物ではなく「手」と「皿」を重視してしまう可能性がある
- 背景・照明・大きさ・カメラの角度などが違う画像を加えると、モデルが一般化しやすくなる
外観検査に当てはめると、「良品は午前に撮り、不良品はまとめて午後に撮った」という集め方は避けたほうがよいと考えられます。AIが不良の特徴ではなく、明るさの違いを覚えてしまうおそれがあるからです。ラインで実際に起きる明るさや向きのばらつきは、良品・不良品の両方に同じように含めておくのがおすすめです。
良品と不良品は、何枚ずつ集めればいい?
必要な枚数は、使うツールや不良の種類によって変わります。参考として、Custom Visionの公式ドキュメントにある目安を挙げます。
| 目安 | Custom Visionの公式ドキュメントの記載 |
|---|---|
| 最低限の枚数 | 最初の学習では、タグ(分類の名前)ごとに少なくとも30枚 |
| 始めるときの推奨 | ラベルごとに少なくとも50枚から |
| 枚数のバランス | 一番少ないラベルと一番多いラベルの比を、少なくとも1:2に保つ |
| テスト用 | 学習後のテストのために、追加の画像も集める |
なお、Microsoftは Azure Custom Visionの提供終了を予定しています。既存の利用者を2028年9月25日まで全面的にサポートすると公表しています。上の数字は、このサービスの目安として読んでください。
現場では、不良品は良品よりずっと少ないのが普通です。不良品の画像は、出た不良の現物を保管しておく、期間を決めて撮りためる、といった方法で計画的に集めるのがおすすめです。
もう1つ大切なのは、評価用の画像を、学習用とは別に取り分けておくことです。Custom Visionの公式ドキュメントは、学習用に送った画像を使って精度と再現率を計算すると説明しています。ツールが表示する数字だけで判断せず、学習に使っていない画像で、熟練者の判定と照らし合わせて確かめると安心です。

熟練者との一致率は、どう測る?
評価用の画像を、熟練者とAIがそれぞれ判定し、結果を1枚ずつ照らし合わせます。熟練者には、AIの判定を見せずに判定してもらいます。
照らし合わせた結果は、次の4つのどれかに入ります。

ここから、次の数字を計算します。
- 一致率: 熟練者と同じ判定になった枚数 ÷ 評価した全枚数
- 見逃し率: 熟練者が不良とした画像のうち、AIが良品とした割合
- 過検出率: 熟練者が良品とした画像のうち、AIが不良とした割合
一致率だけを見ないのには理由があります。不良品がもともと少ないと、すべてを「良品」と判定するAIでも、一致率は高く出てしまうからです。そのため、見逃しと過検出の2つを分けて見ることが大切です。
Custom Visionの公式ドキュメントでは、2つの指標を次のように定義しています。
- 精度: AIがある分類だと判定したもののうち、本当にその分類だった割合
- 再現率: 本当にその分類であるもののうち、AIが正しく見つけられた割合
「不良品」の再現率が低いほど、見逃しが多いことになります。また同じドキュメントは、判定の確信度のしきい値(どれくらい確かなら判定を採用するかの境目)を上げると、精度が上がる代わりに再現率が下がる傾向があると説明しています。しきい値を下げると逆になります。
不良の流出を防ぐのが目的なら、まず見逃しを減らす設定にし、過検出された品物は人が見直す運用から始めるのがおすすめです。判定ごとに次の結果を残していくと、どの不良が苦手なのかが見えてきます。
| 記録すること | 使い道 |
|---|---|
| 画像のファイル名と品番 | どの品番で外れたかを確かめる |
| 熟練者の判定とAIの判定 | 一致・見逃し・過検出を数える |
| 不良の種類 | 苦手な不良を見つけ、画像を追加する |
| 撮影の条件 | 外れた原因が撮り方にないかを確かめる |
画像を読める生成AIで試してもいい?
ChatGPTやClaudeのような生成AIの多くは、画像を読み取れます。ただし、外観検査の最終判定に使う前に、公式ドキュメントの注意点を確かめておく必要があります。Anthropicの公式ドキュメントには、たとえば次の記載があります。
- 画質が低い画像、回転した画像、200ピクセル未満の小さな画像では、誤りや事実と違う説明(ハルシネーション)が起きることがある
- 画像中の物の数は、とくに小さな物が多いと、正確に数えられないことがある
- 重要な用途では画像の解釈を人が確かめ、完全な精度が必要な作業には人の監督なしで使わない
このため生成AIは、次のような周辺の作業から使うのが考えられます。
- 不良の特徴を言葉にして、判定基準の文書を整える
- 熟練者が判定した理由を聞き取り、記録として残す
- 数十枚の画像で「判別できそうか」を事前に試す
社外に出せない製品画像を扱う場合は、社内に置いたAIで処理する方法もあります。詳しくはローカルLLMとは。クラウドのAIとの違いと、導入の判断基準をご覧ください。
導入したあとも、精度を保つには?
AIは一度作って終わりではありません。産総研の「機械学習品質マネジメントガイドライン」は、機械学習を使うAIシステムの品質管理を、ライフサイクル全体(企画から運用まで)で扱う文書です。AIの誤判断による事故や損失を減らすことも目的に挙げています。最新の第4版は2023年12月12日に公開され、その改訂版(4.2.0版)が2024年4月4日に公開されています。
運用の考え方としては、次の点を決めておくのがおすすめです。
- 測り直すきっかけ: 照明・カメラ・材料・仕入先・品番が変わったら、評価用の画像で一致率を測り直す
- 定期的な確認: 月に1回など期間を決め、熟練者が抜き取りで判定してAIと照らし合わせる
- 外れた画像を活かす: Custom Visionの公式ドキュメントも、新しい画像で判定を試し、その結果をもとに学習データを直して再学習する流れを示しています
ツールを選ぶ前に、検査業務を分解する
外観検査のAI化でつまずきやすいのは、「どのツールを買うか」から考え始めてしまうことです。TERRAISEでは、どの業務も「入力(INPUT)→ 処理(PROCESS)→ 出力(OUTPUT)」に分けて考えます。そうすると、AIに渡せる工程と、人が担う工程が見えてきます。

分けたあとは、AIに任せる段階を3つから選びます。
| 段階 | 外観検査での形 |
|---|---|
| 完全自動化 | 一致率が十分に確かめられた品番・不良の種類だけ、AIの判定で流す |
| 下書きを自動生成+人が監修 | AIが一次判定し、不良・保留だけ人が最終判定する |
| 思考を加速する道具 | 判定基準の文書化や、判定理由の記録にAIを使う |
TERRAISEでは「出力の形が決まっていれば、完全に自動化できる。」と考えています。外観検査なら、合格・不合格の基準と限度見本が決まっていることが、その前提にあたります。基準があいまいなうちは、2段目か3段目から始め、一致率のデータをためてから範囲を広げるのがおすすめです。
まとめ
- 外観検査のAIは、全面置き換えではなく「熟練者との一致率を測る」ことから始める
- 撮影条件はそろえて記録し、実際に起きるばらつきは良品・不良品の両方に同じように含める
- 評価用の画像は学習用と分け、熟練者にはAIの判定を見せずに判定してもらう
- 一致率だけでなく、見逃しと過検出の2つを分けて見る
- 照明や品番が変わったら測り直し、外れた画像を学習データの見直しに活かす
熟練者の判断そのものを言葉にして引き継ぐ方法はベテランの判断をAIに引き継ぐ。品質保証・検査部門で生成AI(Copilot)を使い始める手順で、製造業でAIを何から始めるかは製造業の生成AI活用、何から始めるか(業務の3分解)で解説しています。自社の検査工程をどう分けるか迷ったら、60分の無料相談をご利用ください。会社紹介資料や、製造業向けのご案内もあわせてご覧いただけます。
出典(2026年10月5日確認)
- 厚生労働省「「令和7年度ものづくり基盤技術の振興施策」(ものづくり白書)を本日閣議決定」
- 中小企業庁(ミラサポplus)「「2026年版ものづくり白書」を取りまとめました」
- 産業技術総合研究所「機械学習品質マネジメントガイドライン」
- 産業技術総合研究所「機械学習品質マネジメントガイドライン 第4版」
- Microsoft「モデルを改善する - Custom Vision サービス」
- Microsoft「クイックスタート: Custom Vision ポータルを使用して画像分類モデルを構築する」
- Anthropic「Vision」
