生成AIを使うと、作業手順書・作業標準書の「下書き」は短い時間で作れます。現場で使われるかどうかは、熟練者が急所と理由を確かめ、教育と改訂の流れに組み込めるかで決まります。
この記事は、厚生労働省の資料(2026年版ものづくり白書の公表資料、外国人労働者の安全衛生教育に関する指針・通達)と労働安全衛生規則をもとに、2026年10月4日時点の内容で書いています。法令や統計は改正・更新されることがあります。最新の内容は厚生労働省とe-Gov法令検索で確認してください。
作業手順書と作業標準書は、どう違う?
呼び方や書く中身は、会社によって違います。この記事では、次のように分けて考えます。
| 作業標準書 | 作業手順書 | |
|---|---|---|
| 主に書くこと | 工程の条件・基準、使う設備や材料 | 一つの作業の順番、急所、その理由 |
| 主な読み手 | 工程を管理する人、品質保証の担当 | その作業をする人、教える人 |
| 生成AIの役立ち方 | 既存の書類を同じ書式にそろえる | 動画やメモから手順の下書きを作る |
どちらの場合も、生成AIが作るのは下書きです。何を基準にするか、どこが急所かを決めるのは現場の人です。この前提を最初に共有しておくと、導入後の混乱を減らせます。
作業手順書づくりが、いま課題になるのはなぜ?
雇い入れ時と作業内容の変更時に、作業手順の教育が求められる
労働安全衛生規則第35条は、労働者を雇い入れたときや作業内容を変更したときに、遅滞なく安全衛生の教育を行うよう事業者に求めています。教育する事項の一つが「作業手順に関すること」(第1項第三号)です。
同じ条文には、次のような事項も並んでいます。
- 機械等・原材料等の危険性や有害性と、その取扱い方法
- 作業開始時の点検
- 整理、整頓、清潔の保持
- 事故時等の応急措置と退避
なお第2項では、十分な知識と技能があると認められる労働者には、その事項の教育を省略できるとされています。教育の場で使える手順書があるかどうかは、安全衛生の面からも大切です。
技能継承は、ベテランの継続勤務に頼っている
厚生労働省が2026年5月29日に公表した2026年版ものづくり白書の資料では、次の点が示されています。
- 製造業の就業者数は、2023年の1,055万人から2025年の1,033万人に減少
- 技能継承の推進のための取組では、従業員規模にかかわらず、再雇用や勤務延長で高年齢の従業員に継続勤務してもらう割合が最も高く、54.8%
ベテランに残ってもらう方法は、その人が現場にいる間は機能します。ただ、知っていることを書き残しておかないと、退職とともに途切れるおそれがあります。手順書は、その「書き残し」の受け皿になります。
外国人労働者への教育は「理解できる方法」で行う
厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は、安全衛生教育を母国語等や視聴覚教材を使うなど、理解できる方法で行うよう定めています。標識や掲示も、図解などで理解できるようにするよう努めるとされています。
通達「外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について」(平成31年3月28日、基発0328第28号)では、次の点が示されています。
- 母国語に翻訳された教材や視聴覚教材などを入手・整備すること
- 理解度を確認しながら、継続的に教育を繰り返すことが望ましいこと
写真入りの手順書や翻訳版をそろえるのは手間のかかる作業です。ここに生成AIが役立つ余地があります。
生成AIで作業手順書を作る方法は?
手元にある材料(入力)によって、作り方は4つに分けられます。
| 入力 | 生成AIにさせること | 人が確かめること |
|---|---|---|
| 作業動画と部品名 | 動作を区切って手順の文章にする | 抜けた動作、急所、安全上の注意 |
| 熟練者の説明(録音の文字起こし・メモ) | 話し言葉を手順の形に整える | 「なぜそうするか」の理由が正しいか |
| 既存の手順書・Excel | 決めた書式に移し、表記をそろえる | 数値や条件が書き換わっていないか |
| 完成した手順書 | 翻訳ややさしい日本語の下書きを作る | 現場で通じるか(母国語の話者に確認) |
動画・画像・音声をそのまま入力できるかは、使うAIツールや契約プランで違います。導入前に、各ベンダーの公式情報で確かめてください。
進め方は、次の6段にすると現場で回しやすくなります。

特に4段目の「熟練者の確認」を省かないことが大切です。生成AIの下書きは読みやすく整っていても、現場の急所が抜けていることがあります。確認の時間を、最初から予定に入れておくのがおすすめです。
旭鉄工では、どう作った?
自動車部品製造の旭鉄工株式会社では、作業動画と部品名を入れると、AIが作業手順書を自動生成する仕組みをつくりました。手順書の作成は、数日かかっていたものが数時間になりました。
この取り組みは全4回のリピート研修として行い、次の結果が出ています。
- GPTs(ChatGPTで用途ごとに作るカスタム版)の作成成功率: 95%
- 次回参加希望: 79.7%
入力 → 処理 → 出力に分けて見ると、次のようになります。
- 入力: 作業動画と部品名
- 処理: 動作の分解と文章化はAI、要点の確認は熟練者
- 出力: 作業手順書
詳しくは旭鉄工株式会社の事例をご覧ください。
AIに任せる工程と、人が担う工程は?
手順書づくりを工程ごとに見ると、AIに向く作業と人が担う作業がはっきり分かれます。

TERRAISEでは、AIの使い方の到達点を3段階で考えています。
- 完全自動化
- 下書きを自動生成+人が監修
- 思考を加速する道具
作業手順書づくりの多くは、2段目にあたります。一方、書式をそろえる作業は出力の形が決まっています。「出力の形が決まっていれば、完全に自動化できる。」という考え方から、まず書式を1枚に決めるところから始めるのがおすすめです。
作った手順書が、現場で使われる5つの条件は?
手順書は、作っただけでは使われません。現場で使われ続けるには、次の5つの条件をそろえることが考えられます。

- 急所と理由が書いてある: 「どうやるか」だけでなく「なぜそうするか」があると、教える人も覚える人も迷いにくくなります。
- 作業場所ですぐ開ける: 事務所の棚にしかない手順書は、作業中に見られません。タブレットや掲示など、置き場所を決めます。
- 教育の教材として使う: 労働安全衛生規則第35条の教育には「作業手順に関すること」が含まれます。手順書を教育の場で使えば、教育と手順書の内容がずれにくくなります。
- 改訂の担当と時期が決まっている: 作業内容を変更したときにも教育が求められます。工程が変わったら手順書も直す、という流れと担当を先に決めておきます。
- 読む人の言葉で書かれている: 外国人労働者には、母国語等や視聴覚教材など、理解できる方法での教育が求められています。翻訳版を用意し、理解度を確かめながら繰り返し教えることが考えられます。
情報の扱いで、事前に決めておくことは?
作業動画には、図面や取引先の製品、従業員の顔などが映ることがあります。生成AIに入れる前に、次の点を社内で決めておくのがおすすめです。
- どのAIツールに、どの情報を入れてよいか
- 撮影してよい場所・映してはいけないもの
- 生成した手順書の保管場所と、公開範囲
社外のクラウドに情報を出せない場合は、社内でAIを動かすローカルLLMという選択肢もあります。
ツールを選ぶ前に、手順書づくりを分解する
どのAIツールを使うかを決める前に、いまの手順書づくりを「入力 → 処理 → 出力」に分けてみてください。
- 入力(INPUT): 作業動画、部品名、熟練者の説明、既存の手順書
- 処理(PROCESS): 動作の分解、文章化、写真の配置、急所の確認、承認
- 出力(OUTPUT): 決まった書式の手順書、翻訳版、教育用の資料
分けてみると、AIに渡せる工程(文章化・書式統一・翻訳の下書き)と、人が担う工程(急所の確認・承認)が見えてきます。次の一歩としては、次の順に進めるのがおすすめです。
- 対象の作業を1つだけ選ぶ(よく教える作業、担当者が限られる作業など)
- 手順書の書式を1枚に決める
- 熟練者の作業を1本撮影する
- 熟練者の確認時間を、あらかじめ予定に入れる
1つの作業で流れが回れば、同じ型をほかの作業に広げられます。
まとめ
- 生成AIで作れるのは手順書の下書きです。急所と理由は熟練者が確かめます。
- 労働安全衛生規則第35条の教育事項には「作業手順に関すること」が含まれます。
- 2026年版ものづくり白書の資料では、技能継承の取組として高年齢の従業員の継続勤務が54.8%で最も高くなっています。
- 現場で使われるには、置き場所、教育での活用、改訂の担当、読む人に合わせた言葉が必要です。
- ツールを選ぶ前に、手順書づくりを入力・処理・出力に分け、1つの作業から始めるのがおすすめです。
製造業で何から始めるかは「製造業の生成AI活用、何から始めるか(業務の3分解)」、熟練者の判断を引き継ぐ方法は「ベテランの判断をAIに引き継ぐ。品質保証・検査部門で生成AI(Copilot)を使い始める手順」でも解説しています。自社のどの作業から手順書をつくるか迷う場合は、60分の無料相談をご利用ください。取り組みの全体像は会社紹介資料と製造業向けのページにまとめています。
出典(2026年10月4日確認)
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「労働安全衛生規則 第35条(法令API)」
- 厚生労働省「「令和7年度ものづくり基盤技術の振興施策」(ものづくり白書)を本日閣議決定」
- 厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」
- 厚生労働省「外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について(平成31年3月28日 基発0328第28号)」
