AI導入を外部に相談する前に、「目的・対象業務・データ・社内体制・予算・評価のしかた・情報の扱い」の7つをA4一枚に書き出しておくのがおすすめです。全部が埋まっていなくてもかまいません。「分からない」と書いた項目も、相談で詰めるべき論点になります。
この記事は、中小企業基盤整備機構(よろず支援拠点全国本部)、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」、情報処理推進機構(IPA)、個人情報保護委員会の公表資料をもとに、2026年10月3日時点の内容で書いています。公的な相談窓口の内容は変わることがあります。最新の情報はよろず支援拠点全国本部の公式サイトで確認してください。
AI導入の相談前に整理しておく7つのこととは?
外部への相談は、時間が限られています。会社の状況を説明するだけで終わってしまうと、具体的な提案の話に進めません。
公的な窓口でも、AIの相談は業務の整理から始まります。中小企業基盤整備機構の案内によると、2026年4月1日から全国のよろず支援拠点内に「生産性向上支援センター」が開設されました。令和8年度に各拠点に配置された「AIアドバイザー」は、AIを活用できる業務の整理、導入に向けた社内文書・データの準備、活用可能なサービスの検討などを支援するとされています。
相談先が公的機関でも民間でも、最初に確認されることは近いと考えられます。事前に社内で書き出しておけば、その分だけ相談の時間を「次に何をするか」に使えます。
整理しておきたいのは、次の7つです。
| # | 項目 | 書き出しておくこと(例) |
|---|---|---|
| 1 | 目的 | 何を良くしたいか。時間、品質、人手不足、属人化など |
| 2 | 対象業務 | 最初に試す業務を1〜3つ。担当者と頻度 |
| 3 | データ | 業務で使う書類・ファイルの種類、形式、置き場所 |
| 4 | 社内体制 | 決める人、現場の窓口、情報管理の担当 |
| 5 | 予算 | 使える金額の幅、期間、使えそうな制度 |
| 6 | 評価のしかた | 今の作業時間や件数と、何が変われば成功か |
| 7 | 情報の扱い | AIに入れてよい情報・いけない情報の線引き |

以下、順に書き方を説明します。
目的と対象業務は、どこまで決めておけばいい?
1. 目的: 「AIを入れたい」ではなく「何を良くしたいか」
目的は、AIを使うこと自体ではなく、業務の困りごとの形で書きます。例えば次のような書き方です。
- 見積書の作成に時間がかかり、営業が客先に行く時間が取れない
- 問い合わせへの回答が、担当者によってばらつく
- ベテランが退職すると、判断の根拠が分からなくなる
目的は1つに絞れていなくてもかまいません。候補を3つほど挙げ、優先順位をつけておくと、相談先も提案の順番を決めやすくなります。
2. 対象業務: 最初に試す業務を1〜3つ選ぶ
全社の業務を一度に対象にすると、話が広がりすぎます。最初は、頻度が高く、担当者がはっきりしている業務を1〜3つ選ぶのがおすすめです。
どの業務がAIに向くか迷うときは、IPA(情報処理推進機構)の資料が参考になります。IPAの「AIの利活用、AIによるDXの推進」のページでは、具体的なAI導入パターンとして次の9つが挙げられています。
- 手書き文字の認識
- 問い合わせ対応
- 会議録作成・要約作成
- 文書作成・確認
- 自動操作・自動運転
- 診断・検品・分類
- 商品等レコメンデーション
- マッチング
- 経路探索
自社の業務をこの一覧に当てはめると、「うちの見積作成は文書作成・確認に近い」のように、相談先に伝えやすい言葉になります。同じページでは、事例を探せる場として、IPAの「デジタル事例データベース」と中小企業庁の「ミラサポplus事例ナビ」も紹介されています。
データ・社内体制・予算は、何を確認しておく?
3. データ: どこに、どんな形で、誰が持っているか
AIで何ができるかは、使えるデータによって変わります。相談の前に、対象業務で使う書類やファイルについて次の点を確認しておくと、話が早く進みます。
| 確認すること | 例 |
|---|---|
| 種類 | 見積書、図面、日報、マニュアル、メール |
| 形式 | 紙、PDF、Excel、社内システムの中 |
| 置き場所と量 | 共有フォルダに過去数年分、など |
| 中身の性質 | 個人情報や取引先の機密を含むか |
「紙でしか残っていない」「人の頭の中にしかない」という状態でも、相談はできます。それ自体が、最初に取り組む課題になるからです。社外に出せない情報が多い場合は、社内で動かすAI(ローカルLLM)も選択肢になります(ローカルLLMとは)。
4. 社内体制: 決める人・現場の窓口・情報管理の担当
外部の支援を受けても、社内で動く人がいないと導入は進みにくくなります。少なくとも、次の3つの役割に名前を入れておくのがおすすめです。
- 決める人: 予算と優先順位を決める経営者・役員
- 現場の窓口: 対象業務をよく知り、試しに使ってみる人
- 情報管理の担当: 社内ルールやセキュリティを確認する人(兼務でかまいません)
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日公表)は、AIに関わる事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに分けて整理しています。このうちAI利用者は、事業活動でAIシステムやAIサービスを利用する事業者です。外部のAIサービスを業務に使う会社は、主にこのAI利用者にあたると考えられます。
ガイドラインは、10の「共通の指針」として、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ、教育・リテラシー、公正競争確保、イノベーションを示しています。最初から全部を読み込む必要はありません。体制を決めるときに、誰がどの点に目を配るかを考える手がかりとして使えます。
5. 予算: 金額の幅・期間・使える制度
予算は、正確な金額でなくても「今年度に使えるのはこのくらいの幅」と決めておくと、相談先は提案の規模を合わせやすくなります。あわせて、次の点も整理しておきましょう。
- お金をかける対象: 研修、ツールの利用料、仕組みの開発、伴走支援のどれか
- 期間: 単発か、数か月〜1年の継続か
- 公的な制度: 研修とツール導入では、使える制度が違います
補助金・助成金の探し方は、AI研修・AI導入に使える公的支援の探し方で解説しています。
評価のしかたと情報の扱いは、どう決めておく?
6. 評価のしかた: 導入前の数字を残しておく
効果を判断するには、導入前の数字が要ります。相談の前に、対象業務について次のような数字を記録しておくのがおすすめです。
- 1件あたりの作業時間
- 月あたりの件数
- 手戻りやミスの件数
- その業務を担当できる人の数
そのうえで、「1件あたりの時間が半分になれば続ける」のように、何が変われば成功とするかを社内で話しておきます。正確な数字がなくても、「担当者の感覚では1件2時間ほど」とメモしておくだけで、相談先と目標を共有しやすくなります。
7. 情報の扱い: AIに入れてよい情報の線引き
社外のAIサービスに業務の情報を入れる前に、どの情報を入れてよいかを決めておく必要があります。決めずに試すと、後から使い方を止めることにもなりかねません。
参考になる公的な資料には、次のものがあります。
- 個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。個人情報を扱う業務でAIを使うなら、別添の本文を確認しておきましょう。
- IPAは、2026年3月27日に「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版を公開しました。付録には「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」「情報セキュリティ基本方針(サンプル)」「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」などが含まれています。
相談の前に、社内の情報を「入れてよい」「確認してから」「入れてはいけない」の3つに仮に分けておくのがおすすめです。仮の線引きがあると、相談先とツールの選び方や設定の話を具体的に進められます。
業務を「入力 → 処理 → 出力」に分けてから相談する
TERRAISEでは、どの業務も「入力(INPUT)→ 処理(PROCESS)→ 出力(OUTPUT)」に分けて考えます。分けると、AIに渡せる工程と人が担う工程が見えてきます。7つの項目のうち「対象業務」と「データ」は、この形で書くと相談先に伝わりやすくなります。
例えば、問い合わせメールへの返信なら、次のように分けられます。
| 工程 | 中身 | 担い手の候補 |
|---|---|---|
| 入力 | 問い合わせメール、過去の回答、製品資料 | 人が集め、AIが読む |
| 処理 | 内容を分類し、回答の案を作る | AI |
| 出力 | 返信の下書き | 人が確認して送る |

分けたあとは、出力をどこまでAIに任せるかを考えます。TERRAISEでは、到達点を次の3段階で整理しています。
- 完全自動化: 出力の形が決まっていれば、完全に自動化できる。
- 下書きを自動生成+人が監修: AIが下書きを作り、人が確認して仕上げる
- 思考を加速する道具: 考えを広げたり整理したりする相手として使う
旭鉄工株式会社の事例では、作業動画と部品名を入れるとAIが作業手順書を自動生成する仕組みをつくり、手順書の作成が数日から数時間になりました(旭鉄工株式会社の事例)。入力と出力の形がはっきりしていた業務です。
次の一歩としては、対象業務を1つ選び、上の表を埋めてみるのがおすすめです。埋まらなかった欄が、そのまま相談で聞くべきことになります。
相談先はどこから当たる?相談時に何を質問すればいい?
公的な窓口から当たる
費用をかけずに整理を進めたいなら、よろず支援拠点が候補になります。中小企業基盤整備機構によると、よろず支援拠点は国が全国に設置した無料の経営相談所で、経営上のあらゆる相談に何度でも無料で対応しています。
2026年4月1日からは、全国のよろず支援拠点内に「生産性向上支援センター」が開設されています。生産性向上の専門家が、何度でも、無料で現場に来て伴走するとされています。拠点は都道府県ごとにあり、全国のよろず支援拠点・生産性向上支援センター一覧から探せます。
民間の相談先には、7つを渡してから質問する
民間のコンサルティング会社やAI顧問に相談するときは、整理した7つを先に渡したうえで、次のような質問をするのがおすすめです。
| 聞くこと | 確かめたいこと |
|---|---|
| 提案の前提にした業務とデータは何か | 自社の状況を踏まえた提案か |
| 成果物は何か | 報告書・仕組み・研修など、何が手元に残るか |
| 誰が運用するのか | 契約が終わった後も社内で回せるか |
| 入力した情報はどう扱われるか | 使うツールの設定と、社内ルールが合っているか |
| 効果をいつ、何で測るか | 見直しの時期と指標 |
| 費用の内訳 | 研修・ツール・開発・伴走のどこに費用がかかるか |
AI顧問の役割や費用の目安は、AI顧問(社外CAIO)とはで解説しています。
まとめ
- 相談の前に、目的・対象業務・データ・社内体制・予算・評価のしかた・情報の扱いの7つをA4一枚に書き出す
- 対象業務は1〜3つに絞り、「入力 → 処理 → 出力」に分けて書くと伝わりやすい
- 導入前の作業時間や件数を記録しておくと、効果を判断できる
- 情報の扱いは、個人情報保護委員会やIPAの公開資料を参考に、仮の線引きをしておく
- 無料の公的窓口として、2026年4月1日に開設された生産性向上支援センターでもAIの相談ができる
AI顧問の業務内容と費用の目安はAI顧問(社外CAIO)とは。費用の目安・業務内容・選び方と、コンサルとの違い、公的支援の探し方はAI研修・AI導入に使える公的支援の探し方で解説しています。7つの整理を一緒に進めたい場合は、60分の無料相談をご利用ください。TERRAISEのサービスの全体像は会社紹介資料で、経営者のAI戦略を継続して支えるAI顧問サービスはサービスページで確認できます。
出典(2026年10月3日確認)
- 中小企業基盤整備機構「よろず支援拠点全国本部」
- 中小企業基盤整備機構「よろず支援拠点・生産性向上支援センターとは」
- 中小企業基盤整備機構「全国のよろず支援拠点・生産性向上支援センター一覧」
- 総務省「「AI事業者ガイドライン」掲載ページ」
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(PDF)
- 情報処理推進機構「AIの利活用、AIによるDXの推進」
- 情報処理推進機構「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」
- 情報処理推進機構「プレス発表「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版を公開」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
